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朝のバス停
 朝のバス停。文庫を持ったサラリーマンが一人。エリは眠気と戦いつつ歩いていたが、急にしゃんと姿勢をただし、
「おっはよー大介。今日も早いわね。何、読んでるの?」
 ポンと男の肩を叩く。大介は今、気づいたとばかりの視線。面倒くさそうな様子を隠しもせず、タイトルと作者名をぼそりと呟く。いつもながらにそっけない。
「それ、面白い?」
「まぁ」
「貸して?」
 大介よりも背の低いエリが、覗き込むように大介を見つめる。本とエリの顔を交互に見やっていた大介は観念したかのように、
「いいけど――」
「ありがと、大介。ほんと、いつも貸してもらって悪いわね。いつか埋め合わせするから、何かあったら言ってね」
 言いつつ、携帯をいじりはじめるエリ。メールが入っていたらしい。慣れきっていない、まどろっこしい手際でメールを打ち始める。大介が話しかけても上の空。聞いていない。
 そのうちバスが到着し、二人は乗り込む。エリは携帯をしまったものの、よほど眠たかったのだろう、窓に寄りかかり、まどろんでいる。起こすのは悪いかと、大介は本の間からエリの姿を見やりつつ、駅に着いたら起こさなければいけないとため息をつく。エリの姿を見てから、彼が熱心に読んでいるはずの小説は一ページもめくられていない。



『朝のバス停』をご覧いただきありがとうございました。

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